海辺の公園

赤い公園のファンブログです。

メモ:補助線

絶対零度」の歌詞が最初読んだときあんまりよくわからないというか、ぴんと来なかったところがけっこうあった。まあ歌詞というのは往々にしてそういうものであろうと思うし特に気にしていたわけでもなかったのだが、いくつかインタヴューなんかを読んでいるとどうも死海に飛びこもうとしている金魚について歌った詞であるというようなことを津野さんが(珍しく)ほのめかしていて、それを知ってもう一度歌詞を読むと最初に読んだ時よりもかなり色々わかったような気がした。図形の問題が適切な位置に補助線を引くとすっと解けるように、自分にとって「死海に飛びこもうとしている金魚」というイメージは「絶対零度」の歌詞を読み解くうえで重要な支えになった。

これはたまたまインタヴューで見つけた言葉であったけれど、そうでなくても自分が気づいたささやかなことや歌詞の小さな1フレーズから歌詞がするするっと読み解けたり、まったく新しい情景がぐぐっと立ち上がって来たりみたいなことは時々あるように思う。たとえば「MUSK」ではしばらく聴いてから不意に「ドアの目」という言葉が気になって、そこから想像する光景がこの歌の印象をそれまでよりもはるかに具体的にしてくれた。ドアの目というのはあの片目で覗くドアスコープのことを指すのだろうと自分は勝手に思っていて、そこから七色の光が広がっているのはきっと自然光が入っているのだろう、とか、まだ午前中、朝と言っていいぐらいの時間帯なのかな、とか、玄関のドアが東を向いていて外廊下のように外光が入る構造なのだろうな、とか、そんな連想がぱあっと広がったのだ。まあ、完全に自己満足ではあって、津野さんが思い描いていた光景(が仮にあったとして)とはおそらく全然違うのだろうし、他の人が聴いた時に想像する場面とも重なるところはほとんどないだろう。それでもなにか自分の中にそういうものが不意に立ち上がるという体験は大変楽しく不思議にうれしいものだった。

「ジャンキー」ではアルバム版で曲の頭に入っているなにか金属を落とす音を鍵だと(勝手に)思いこんだところから想像が始まった。『THE PARK』の感想でも書いているけど、鍵を取り落とすというのはこの歌い手がout of controlな状態にあるということを表しているような気がして、歌詞もその前提のもとに自分は聴いた。「苦しくて息を吸った 吸った息を吐いた」という二行がすごく好きだ。好きというとちょっと違うかもしれないけど、毎回すこしはっとする。人はたぶん苦しいときにしか呼吸を意識しない。心が「ひとつふたつ」うねったという表現もいい。冒頭の鍵を落とす音からサビで吐露されるその苦しさまで、なにか一本の糸がつながっているように思える。

個人的な発見だとはわかっていながらこれをわざわざ書いたのは、他の人が書いたこういうものを読むのがけっこう好きだからだ。これを読んでいるみなさんにも赤い公園の曲を聴いた時に湧いてくる勝手なイメージや、何故か気になって仕方のない細部や、ある時気がついてそれ以来その曲に対する見方が変わってしまったことなんかがあったりしないだろうか。そういうものがあったら教えてもらえると嬉しいのだけど。