海辺の公園

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赤い公園アドベントカレンダー2021(8日目):「108」

このエントリは赤い公園アドベントカレンダー2021の8日目の記事です。何を書いてもいいということですが、やはりいつも通り曲の感想を書くことにしました。今回とりあげるのは「108」です。

先日こんなことをツイートした。


ある曲が好きというのにもいろいろあると思っていて、もう耳にするだけでテンション上がって楽しい、というのもあるだろうし、旋律や歌声に引き込まれて夢中で聴いてしまう、というような曲もあるだろう。自分にとって「108」はそういう曲ではないし、この曲だけを聴きたくて再生することもない。でも、『猛烈リトミック』を聴いていてこの曲にさしかかると、だいたい毎回うーんすごい曲だなこれは、と思う。
曲そのものもなかなかにすごい。冒頭の「ほとっけっさっまーはしんだ とおいむかっしーにしんだ」のところのわけのわからない符割りとか、人間なのにさ、で強引に切り替えてサビに持っていく展開とか、耳にすっと馴染みはしないが妙に印象に残るようなところがある。和楽器を用いていないのにどこか日本っぽい雰囲気があるアレンジも面白い(これは蔦谷好位置氏の貢献が大きいかも)。とはいえ、この曲の真骨頂はやはり歌詞だろう。
あまり感情を外に見せずいつも心平らかにいるように見える人にひかれて、そういうひとに自分のために心を動かしてほしいと望むのはよくあることで、古来そういう歌もたくさんあるけれど、それがお坊さんと結びつくとびっくりしてしまう。「そんなに悟ってどうするんだい」と少し呆れたように言っているが、その言葉の裏にある思いは切実だ。この歌の「私」はお坊さんに、あるいは宗教関係の人全般に、なにか漠然とした違和感を抱いている。そして「あなた」がそちらへ近づいて行ってしまっていることに寂しさを感じている。その違和感と寂しさを合わせて歌詞にしているのだけど、そこで悟りという言葉を使っているのはなんとも大胆だし、そのことがこの曲に実にユニークなフレーバーをまとわせている。

この曲は歌詞もメロディも一気に書けたそうで、津野さんも気に入っていたみたいなのだけど、ちょっと大胆すぎた面はあったようだ。

「108」はシングルにしたかったんですけど、歌詞の問題で難しかったっていう。
m-on music -- 赤い公園 - 亀田誠治、蔦谷好位置、蓮沼執太、そしてKREVAまで! ニュー・アルバム『猛烈リトミック』について津野&佐藤にインタビュー。
赤い公園のシングルが最終的に何枚出たか*1を思えば「シングルにしたかった」というのは相当な高評価であると言えよう(まあしたかったというだけならたくさんあったのだろうけど)。具体的に何が問題だったのか知りたいが、想像から大きくは離れないのではないかという気もする。

そして津野さんは案の定こんなことを聞かれたそうだ。

津野「だって私これ、『住職と付き合ってましたか?』って聞かれたもん(笑)。付き合ってないですけどね(笑)」
NeoL -- 赤い公園『猛烈リトミック』インタビュー(後編)
組み合わせの意外さに驚く気持ちはわかるし、それが奇妙な切実さを持っていることで余計にこの質問をしたくなるのだろうけれど、この類の質問は基本的には少し失礼かなと思っている。つまり、フィクション内の出来事を実体験なんじゃないかと聞く、というのは作家の想像力の否定だからだ。これは受け売りで、ニコラ・グリフィスが『スロー・リバー』のあとがきで書いていたことなのだけど、わりと大事なことだと思っている。

ともあれ、ずば抜けて目立つわけではないけど、ユニークで存在感のある曲で、赤い公園以外からはちょっとこれは出てこないぞという感じの曲だと自分は認識している。


この時テンションが上がったのは、「わー赤い公園だ!」ということだけではなくて、この曲だったから、ということはやっぱりあると思う。よく知らないけど、たぶん今日日なかなか「108」かからないですよね。


赤い公園アドベントカレンダー2021」は架空の企画……だったはずですが、なぜか現実のものになりました。みなさんもふるってご参加ください。

*1:(「透明/coward」を除いて)11枚です。念のため。