海辺の公園

赤い公園のファンブログです。

ミニアルバム『消えない - EP』

全体

石野さんが入ってから初めての円盤(音源としては配信のみの「凛々爛々」がある)。Re: First Tourを経て満を持してのリリースだった。
鋭くてユニークなロックサウンドの「消えない」、アーバンでちょっとアンニュイな「Highway Cabriolet」、テンション上がるサウンドに一歩引いた歌詞の乗る「凛々爛々」、打ち込みのヒップホップ「Yo-Ho」など様々な色の曲が収められた名盤だが商業的には芳しくなかったらしい。

消えない

赤い公園はイントロがいい曲の多いバンドだが*1、わけてもこの曲は一二を争うと思う。鋭いギターのカッティングにドラムが割って入って絡んでいくところは何百回でも聴きたいかっこよさだ。
石野さんのヴォーカルは少し硬く、切羽詰まっている感じがする。ゆうパラ水曜日最終回ではそれを「理子ちゃんが緊張している」と言っていたのだが、自分はこれも石野さんの表現だと思っている。そしてこの緊張感が伴奏の緊張感ともよく嚙み合っていると思う。
この曲はMVもよくて、石野さんの鬼気迫るダンスに目が行くけど、右側でギターを奏でる津野さんがどこか常に余裕のある感じでよい。そして半分の画面では狭すぎるとばかりに暴れている藤本さんのベースが、最後四小節?長く響いて終わるのがほんとうに素晴らしい。

Highway Cabriolet

ちょっと甘いヴォーカルと、ぼわんと響くギターの音に冒頭から引き込まれる。Bメロでぐうっと高くなってから、サビ前の「どうにもならない」のところで下がるところが気持ちいい。熱帯夜のけだるい雰囲気がメロディとヴォーカルで体現されている。
1番ではシンプルなビートを刻んでるベースが2番で全然違うこと始めておおってなる。このグルーヴと、ギターの絡み方が絶妙でほんとに好き。サビのハンドクラップは「思わず入れちゃった」みたいな感じがあって、アレンジしながらものりのりだったのでは。

この曲は佐藤さん脱退後の三人体制の時に初めて披露されたらしいけれど、石野さんを迎えてから生まれ変わり、何度も音源になっている(これのほかに『THE PARK』のCD2と、2020年のインスタライヴ)。都度アレンジは変わるがどれがいいとも決めがたいほどどのヴァージョンもよくて、楽曲の骨の部分が強いのだろうと思う。ラストライヴでは「さんこいち」(石野さん、歌川さん、藤本さんの三人)で演じていたが、これも実によかった。

ところで「煙を吐いてる遊園地」は津野さんの中では四日市のコンビナートのイメージだったらしいという話があるそうだが、これなんかは本人の着想元と出力されたものに乖離がある例かなと思う。四日市だとしたらアーバンじゃなくてインダストリアルになっちゃうもんな。

凛々爛々

ハイハットの連打から始まる威勢のいい曲で、サビの手前までは溜めが利いている一方で、歌詞、特に一番はちょっと挑戦的な内容になっている。とはいっても「愛をわけてあげる」らしいんだけど。
サビに入るとメロディや伴奏ではその溜めが一気に解放され、反面歌詞は「ひと駅歩いてみようかな」「ひと息ついてみたりしようかな」「コーヒーでも飲もうかな」「一日の打ち上げでもしようかな」と緩めるような内容になる。シンプルだけど徹底的な対比。
というわけで、かわからないが、自分はこの曲にはちょっと多層的な印象を持っている。どういう曲というのを説明するのがむずかしい。

HEISEI

打ち込み?の短いフレーズが鳴ってから、いきなりノイズギターがじゃわわわと入ってきて面食らう。ちょっとホワイトノイズめいた音といい、箱に閉じ込めたような響きといい、シューゲイザーっぽいと言ってよかろうか。藤本さんによれば「耳栓のいらないマイブラ」。そのサウンドの上で石野さんが素晴らしくのびやかに歌う。「ラララララ」のやわらかいこと、サビの高音の美しいこと、メロディと歌(歌い手)がすごく上手く噛み合っている曲のひとつではないかと思う。
落ちサビで一旦ノイズが止み、ヴォーカルとキーボード(?)が絡む、こういうところが本当にうまくて、津野さんのすごいところ。後半にはちょっぴり鉄琴が使われている。いろいろな曲でちょっとずつ使われていて、初期のカウベル同様なにかシグネチャみたいな感じで入れていたのかもしれない。最後は冒頭の打ち込みっぽい音に戻って終わり。
ベースもなかなかすごくて、藤本さんが歪んだ音をぶいぶい鳴らしている。かっこいい。
この曲からは「夜の公園」へうっすら続く道が引かれたが、「Yo-Ho」ほどではないにしろ少し先が気になる、わりと面白い曲。

Yo-Ho

打ち込みをがっつり使った曲でほぼ生の楽器は入っていない、のかな? イヤホンで聴くと冒頭のループが左右でうねるように行き来して聞こえて、このうねりがトラック全体のフロウを規定しているように感じる。
曲が始まる前には鳥の声みたいなSEが入っていて、ベタに森の奥という舞台設定。歌詞に“ブロッケンの妖怪(ブロッケン現象)”が出てくるので山奥と言ってしまってもいいのかも。出だしは珍しくファンタスティックな歌詞もあって、文字通りの牧歌的な雰囲気がある。
トラックのうねりと石野さんのリズム感が心地よくて、なんどとなく繰り返されるYo-Hoという響きも楽しい。生音がない曲だけれど、自分はすごく面白くていい曲だと思うし、こればっかりでは困るがEPに一曲入ってるぐらいなら全然いい。
ライヴでどう演じるかについてもすでに少なくともひとつ以上の答えは出ていて、津野さんのイマジネイションと幅の広さには感服するばかりだし、軽々やってのけるリズム隊のふたりもすごい。ラストライヴでは「さんこいち」(Highway Cabrioletの項参照)で見事に演じていた。
歌詞については言及しづらいが、中間部の「さしのべられた~」のところは際立って耳に残るし、野の花を踏みつけるというモチーフが「HEISEI」と二曲続けて登場するというのはある種のobsessionと言っていいように思う。そしてそのobsessionをバンドに起きた出来事と重ねるのはさほど無理な見立てではないだろうが、それは安直の誹りを受けてもまた仕方のないところかとも思う。

サウンド的にはこの曲から「Mutant」へうっすらとつながっているが(わずかに「sea」にもつながる)、おそらくもう少し別の方向へ向かう道もあったのではないかと思う。きっと津野さんはいろいろ考えていたはずだと想像する。その先にある音を、もっともっと聴いてみたかった。

MV

消えない

https://www.youtube.com/watch?v=boG1NpRoi44
画面を左右に二分割して、左半分は海岸で石野さんが踊り、右半分はスタジオで三人が演奏しているという構成のビデオ。まだ高校生で広島に住んでいた石野さんと、東京で活動していた楽器隊の物理的な距離をそのままフレームにしている。実際に海岸は広島で、スタジオは東京にある。途中彗星が飛ぶカットがあったり、最後に紙飛行機が横切ったりするものの、とうとう三人が相まみえることはないというのは大胆なストーリーで、実際に MV で四人が出会うのは翌年春の「凛々爛々」を待たなければいけなかった(同時期に石野さんも高校を卒業して東京に引っ越した)。当時駆け出しだったという志村知晴氏が監督と振り付けを担当している。石野さんのダンスは迫力があり、ここから始まるんだ、このまま消えてたまるかというバンドの気迫を表現して、一方で実際にバンドを続けてきた三人は楽しそうに演奏しながらいつか来る石野さんの合流を待っている。当時のファンはやきもきしただろうけど、そのころに焦って活動しなかった判断は間違っていなかったと自分は勝手に思っている。海岸がとにかくめちゃくちゃ綺麗で、こんなところで踊る石野さんを見られるだけでなんだかうれしい。

インタビューとか

インタビューのページに移しました。

*1:もちろんどのバンドのどんな曲でもイントロに力を入れるとは思う。