海辺の公園

赤い公園のファンブログです。

5thアルバム『THE PARK』(DISC 1)

全体

石野さんが加入してから初のフルアルバム。『消えない - EP』から約半年でたたみかけるようにリリースしたアルバムで、前作を超える大傑作となった。
自分としては初めて聴いたフルアルバムだが、今に至るまでこのアルバムが一番好きだ。楽曲の幅の広さはこのバンドならではで、どの曲も強いメロディと心に響く歌詞というしっかりした骨格を持っているうえに、自由で細かいアレンジとそれをしっかり聴かせる演奏が揃っていて本当に飽きることがない。曲順も完璧といっていいほどうまく並べられていて、アルバム全体としてもしっかり作品になっている。
赤い公園の、この先をもっともっと聴きたかったし見たかった。それでも、このアルバムを作ってくれてほんとうによかったと思う。

Mutant

鼓膜にぶつかってくるようなドラムのイントロやAメロのちょっとラップっぽい節回しを聞いて、こんな曲もやるんだという第一印象だった。Bメロでメロディアスになるんだけど、ここは伴奏のギターの絡み方が見事。特に2番の「名前なんてAかBか ただの通りすがり」でギターが途切れ途切れになるのがめちゃくちゃいい。こういう演奏はギタリスト津野さんの真骨頂と思う。
サビの「見せつけろ愛」のところは80年代ふうの大仰なアレンジで面白い。このバンドは新しいとか古いとかをあんまり気にしないように見える。
最初のサビの「…はー。」(歌詞カードにこう書かれている)のところがもう完璧に「はー。」と聞こえてすごく好きなんだけど、この「はー。」といい、サビの大仰なアレンジといい、ちょっと皮肉っぽいニュアンスがある曲のように思う。でも曲自体は本当にかっこよくて、そこがとてもよい。

ところでWhat's IN?のインタビューのこのやりとりが好き。

石野 19年生きてて、「お前個性出せや」みたいなことって言われるじゃないですか。
津野 その口調で言われるのね?
What's in? Tokyo -- 赤い公園 新体制で仕上げた“ファーストアルバム”。温めてきたセルフタイトル『THE PARK』に込めた想い。4人の素直な胸の内を訊く。
発言の趣旨的には津野さんの言葉をカットしてもいい流れだが、インタビュアーは拾ってくれた。これって俳句みたいなことで、この一言があると、ああ、石野さんが声色を使ったのかな、とか、津野さんが思わずつっこみたくなるような感じだったのかな、とか、こういうやりとりが成立する雰囲気なんだな、とか、言外の部分に想像がばっと広がる効果があると思っていて、こういう一言の取捨選択にインタビュアーの腕が出るという面はあるように思う。ともあれありがたい。手を合わせながら読みました。

紺に花

“ジェイポッパー”津野さんの本領発揮、ど直球のポップロックで題材も卒業、片思い。曲調はいさましくメロディと歌詞はあくまでも切ない。いろいろな人が言っているがこれをシングルカットしないのかというのが率直に驚き。まさにポップなあまのじゃくでむしろすごいが、この曲がシングルになったりMVが作られたりしていたらどうなっただろうと今となっては思う。
特設サイトのセルフライナーノーツで石野さんが、好きな人の前で声が高くなる感じを意識して歌ったというようなことを言っていて、そうきたか!!となった。それを頭に置いてサビをもう一度聞くと、ちょっとじっとしていられないような感覚が胸に湧いてくる。歌詞の中では物語が最後まで語られないのもにくい。歌川さんのコーラスも華やかな味わいを添えている。
この曲はアルバムの中でも一番好きな曲。ラストライヴでは初めてライヴで披露し、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた。サビのところで石野さんが左手を上げて手首をくるくる回す振りがあって、桜の花びらをイメージしていると思うのだけど、それがとても可愛かった。

  • ギターソロの前半部は「誰かが言ってた」のサビ「あべこべの僕には~」部分と同じ旋律(rayfさんのツイートより。「歌の内容も近いので意図的な引用な気が。」とのこと)。

ジャンキー

聴いているとつい頭を小さく揺すってしまう、めちゃくちゃにノリのいい曲。冒頭に鍵を床に落とす音が入っている。硬い金属としかわからないのだけど、自分は鍵と思った。鍵を取り落とすのは、なんにせよout of controlな状態だと思う。
ベースラインがとにかくかっこよすぎてずっと聴いてしまう。珍しく歌詞の正味が少なめで繰り返しが多い曲なのだけど、その展開を藤本さんのベースが延々と先頭に立って引っ張っていく。コーラスが終わって最後のサビに入る直前の二小節にはしびれる。この溜めの気持ちよさ!
この曲はインスタライヴのヴァージョン(四人それぞれで宅録してそれをミックスしている)があるのだけど、そちらはシンプルなアレンジで、それでいてしっかりこの曲のノリのよさとかっこよさが伝わってくる。
ここまでの三曲、カラーはまるで違うけどどれもいい曲で、アルバムの最初の三曲としてすごくいいセットだと思う。

  • FOD オリジナルドラマ『シックスティーン症候群(シンドローム)』の主題歌。

絶対零度

空挺ドラゴンズ』のエンディング曲。「オレンジ」を好きになってから同じバンドの曲をさかのぼって探しているうちに何度か聴いて、タイアップにしてはとっつきづらい曲だな、と思っていた(余談だが「風が知ってる」にも全く同じことを思った)。実際いきなり耳に馴染むような曲ではないように思う。
いくつか提出したデモの中から「いちばんやばい曲を選んでもらった」と津野さんは言っていて、きっと意気に感じるところはあったのだろう。1クールのアニメのEDは「12回聞いてもらえる曲」だから、少し吞み込みづらくても深く刺さる曲を、という意図はあったのかもしれない。
繰り返し聴いていると、拍子の変化に伴う独特の緩急の変化が気持ちよくなってくる。ただBPMは変わっていないのでAメロやBメロも実際にはそこまで遅いわけではないのが面白い。サビに入るちょっと前に四拍子に変わるところはアガる。2回目のサビ前のハイハットも好き。
Bメロの美しさと静謐さは特筆すべきで、この曲の情景を形作っている。誤解を恐れずに言えば死の気配のある曲だと思う。

  • TLで「デモって実際のところどんなもんを提出するんだろう?」という疑問からはじまって、楽曲がエンディングに収められるまでどういう工程を経るのだろうみたいな話になって面白かった(スレッド)。自分の勝手な想像としては、尺はもともと決まっているはずで(空挺ドラゴンズだと90秒、たぶん大抵のアニメで同じ)、曲は尺とは関係なく作るが、それはそれとして90秒に縮めるとしたらどうするかぐらいはぼんやり想定して書くだろう、という感じ。「アラバの海の~」から「~労られ終える命か」までがおよそ92秒なので、前奏を少し足して途中をどこか切り詰めて……ぐらいの想像はしていたのではないかな、などと妄想したりした。実際のエンディングでは前奏が少し入り、Aメロの二回目がカットされ、サビの後最後の「アラバの海の~」まで飛んで終わりという構成になっている。90秒って短いね~
  • Aメロの前半は「未来」(→『THE PARK (DISC 2)』)のAメロの前半と同じ旋律。(参照→s.h.i.氏のツイート

Unite

控えめなキーボードのイントロで珍しく静かな曲だなーと思ってると一番も終わらないうちに大仰と言えるほどのアレンジになっている。曲全体にひとつの大きなクレッシェンドがつけられているような構成で、最後の「yeah」まで延々と密度が上がっていく。
石野さんのヴォーカルをフィーチャーした曲という印象で(DISC 2のヴァージョンを聴いてよりその印象が強くなった)、石野さんもそれにしっかり応えている。珍しくフェイドアウトで終わるが、赤い公園の曲でフェイドアウトで終わる曲は数えるほどしかないのではないだろうか。

ソナチネ

面白いイントロ?でこれはけっこう好き。歌始まりのヴァリアントとしてはよくあるやつなのかもしれないけど、自分はあまり聞いたことがなかった(忘れているだけの可能性が高い)。冒頭の歌詞がよくて、歌声も柔らかくて、平和な陽だまりのような印象。
ところが歌詞を読み返すとそもそも冒頭の時点でこの恋は終わっていて、その追憶と悔恨を歌っている。津野さんもインタビューで「大丈夫じゃないほうの大丈夫」であると認めている。サビの歌声も切実で伴奏も一気に盛り上げてくる。
石野さんはこの曲からスーラの「釣り人」という絵を連想したと言っていて、どんな絵か知らなかったので調べてみたが、わかるようなわからないようなという絶妙なところで面白い。「unite」はハンマースホイっぽいと言っていて、そっちはなんとなくわかる。

chiffon girl (feat. Pecori(ODD Foot Works))

Aメロの「ふ み だして きた」のところがめちゃくちゃすごい。隙間のところにガラスを引っ掻くみたいな音が入って、最初本気でなんだこりゃと思ったけど聴きこんでいくとこれが気持ちよくなってくる。こういうのを狙って作れるセンスには舌を巻く。あとはサビの「なあああああああああああああい」。これは書くほうも書くほうだし歌うほうも歌うほうだと思う。津野さんと石野さんが出会ってよかった。
Pecori氏のラップは雰囲気がある。特設サイトのセルフライナーノーツで石野さんが「歌の比率は自分のほうが多いのに、ラップで完全に振り回されている」というようなことを言っていたけれど完全に同感で、ゲストを呼んだ曲の完成形態としては最高のものではないだろうか。
「背伸びの汗がしたたる」は可愛さと色気の入り混じった表現で好き。こういってはなんだが津野さんの歌詞にはあまり見られないたぐいの描写で(身体的表現が少ないと思う)、よけいにぐっとくる。

夜の公園

この曲はUKロックっぽい。ギターのイントロとか、ストリングスっぽい音が入るところとか、ちょっと切ない歌詞とか。最後なんて「わたしじゃだめですか」で終わってよさそうなのにそこからひとしきりギターのフレーズが入って、そのあとで終わる。
歌詞はぎりぎりあざとい、ぐらいの感じ。ちゃんとした部屋着、並ぶブランコの距離、と細かい描写が情景の解像度を上げている。一緒に風邪をひいて嬉しい、というのがせつなすぎる。風邪ですらもらってうれしいのに、相手は別のだれかに夢中なのだ。

冒頭から「えい おー えい おー」というサンプリング?が入るのと、その直前に入るぽえーんって音の響きがとてもやわらかくて好き。イントロに限らず全体にあたたかい雰囲気のある曲で、希望の気配にあふれている。タイトルにたがわぬ夜明けの曲。サビのメロディと伴奏が美しく、石野さんの歌声ものびやかで、それでもあくまでも柔らかに耳に響く。同じように広がりを感じさせる曲でも、「紺に花」では上ずる声が春の白っぽい青空を思わせたのが、この曲では薄明まじりのミッドナイトブルーだ。
歌詞は明らかに再生を題材にしていて、やはりバンドの状況とリンクしていたのかなと思う。リセットボタンの壊れた、というのは、佐藤さんが辞めてしまったときに、「私たちも止めなかったわけだから」と振り返った津野さんの言葉につながるのだろうか。
折り直した鶴というモチーフはユニークでキュートで、津野さんらしい気がする。もう追いつけはしないというのはなにを指していたのだろう。漠然と、具体的な何かや誰かではなかったのではないかと自分は考えていて、強いて言えばどこかで違う分岐を選んでいた自分たちみたいなものを想像していたのかなと思う。これは根拠のない妄想。

KILT OF MANTRA

「曙」から続く朝の歌。こちらは全員のコーラスもあって、かなりかわいい仕上がりになっている。歌詞を除けばポップでリズミカルな曲で、サビのところでドラムがつったかたったか細かく刻んでるのが好き。
特設サイトのセルフライナーノーツで津野さんがバグパイプに言及していて、なんとなく実際にバグパイプを入れてみたかったんじゃないかなという口ぶりにも思えるのだけど、実際にはあまりそれらしい音色は使われていない。間奏とかにいきなり入っているのを聞いてみたかった気もする。
さらっと歌詞に出てくる「タータン」は実は厳密に図柄が管理されていて、この柄は誰のタータン、というのは一意に定められている。津野さんは赤い公園のタータンはどんな柄だと想像していたのかな。

  • この曲ではBメロ以外はファとシを用いないいわゆるスコットランド音階を用いているとのこと。(鶸潟ロキさんのツイート)自分は言われるまでまったくわからなかった。
    • スコットランド音階は日本のいわゆる「よな抜き」と同じらしい。他の国にもぽつぽつあるらしい。面白い。

yumeutsutsu

ひずんだギターのイントロから突っ走る、直球のロック。このギターの音は津野さんはかなり気に入っていたようで、あちこちで「すごい音でしょ」的な言及をしている。実際言われないとギターってわからないかもしれん。三分ちょうどのアップテンポなナンバーだが、藤本さんと歌川さんのリズム隊はこういう曲でもつんのめらない。BPMもたぶんそこまで高くはなくて、あらためて聴くと不思議なスピード感がある。
すがすがしいほどまっすぐなメッセージが連発される曲だけど、ギターはかなりひずんでいるし、ベースも結構複雑なフレーズを奏でている。最後に書いた曲を最後に置いたら浮いてしまいそうなものだけどそうはなっていない、赤い公園的ポップセンス。

インタビューとか

インタビューのページに移しました。

MV

ジャンキー

https://www.youtube.com/watch?v=lY5cElAjEQo
メンバーの写真をあしらったいろんな架空の商品が登場するちょっとかわいいビデオ。しっかり作りこまれてはいるが惜しむらくは楽曲の雰囲気とあまり合っていない。まあそういうこともあるとは思うが、すごくいい曲だけに惜しい。

絶対零度

https://www.youtube.com/watch?v=B7HeN3JO9OI
砂漠をイメージした舞台の上で四人が少し離れて向き合って演奏し、その間や周りでダンサーが踊る、めちゃくちゃかっこいい映像。モノクロなのもこの曲に合っているし、曲の拍子が変わるのとダンサーたちの動きが呼応しているのがいいんだよね……。サビのところで石野さんの後ろから手がわらわら伸びてくるところは妙な色っぽさがあると思う。監督とコレオグラファーは『消えない - EP』の三作に続いて志村知晴氏。

夜の公園(リリックビデオ)

https://www.youtube.com/watch?v=DEgTUrLUbe8
空挺ドラゴンズ』原作者の桑原太矩氏が描き下ろしたイラストに歌詞を記載した紙芝居式の動画。はっきりした制作の経緯はわからないが、タイアップで生まれた縁がしっかりつながっていて次のコラボレイションにつながったことにはこちらまで嬉しくなった。おたがいプロなのだからタイアップなんてその場限りの関係で全然いいと思うしそういうものだと思うが、それを超えた関係があったというのはぐっと来るものがある。描いてくれたイラストもまたいいんだよね。ビジュアルを固定してしまうことには想像の自由度を奪う側面もあるけど、それ以上に情景を補完してくれたし一見さんの目を引く力もあったと思う。

ところでこの動画、最後のサビの前にばばばばっと「わたし」の内心の声が字幕で出るのだけど、あれは誰が書いたのだろうというのは少し気になっている。内容はこんな感じ。
私のことどう思ってるんだろう/あなたが好き/臆病なのは私の方だ/もっと悩んでいて/うまくいかないで欲しい/わがままなのは私の方だ/ドキドキする/一緒にいると緊張する/その手に触れたい/もう少し近づきたい/呼び出してくれて嬉しい/一緒にいたい/そばにいたい/優しくしたい/そんな子はやめちゃえ/帰りたくない
歌詞から外れた内容はひとつもないのだけど、たとえば「あなたが好き」はかなり踏み込んでいて、そう思うと津野さんが書いたわけではないのかな。

yumeutsutsu

https://www.youtube.com/watch?v=CQ4Za-wJWaI
メンバーみんながそれぞれにトランポリンで跳ねているちょっとかわいい映像。この曲の独特の速度感と案外マッチしていて気持ちいい。
最後マットレスみたいなのの上に四人でぼふってダイブして、そのうえに薄手の羽根布団がふわってかかって終わるのだけど、YouTubeのコメント欄で「お布団で寝てる四人に掛け布団ファサッってやつ考えた人ありがとうございますありがとうございます。 」って書いている人がいて笑ってしまった。ばかだねー。でも気持ちはわかる。志村監督だとおもう。

  • 赤すぎる公園内にこのMVのメイキング映像があるのだが、見ている感じ石野さんあんまり運動神経よくなさそうだなという印象がある(余計なお世話)。

『THE PARK』メイキング

https://www.youtube.com/watch?v=0sId7vNwM-Q
石野さん加入(というかソニー移籍)以後「情熱公園」が作られなくなってしまったので、貴重なメイキング映像。9分しかないのでもっと見せてくれーとは思ってしまうが、それでも作ってくれたのはありがたい。「エビチリとシュウマイ」(DISC 2の「石」参照)はこの動画に含まれている。

  • これも志村監督が作ったとのこと。